大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)7086号 判決

本訴原告(反訴被告)

加藤清

右訴訟代理人弁護士

近藤節男

園高明

近藤義徳

本訴被告(反訴原告)

フジチュー株式会社

右代表者代表取締役

小西長博

右訴訟代理人弁護士

富永義政

高梨孝江

江上千恵子

本訴被告

樋口忠男

右訴訟代理人弁護士

川又次男

主文

1  本訴原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。

2  本訴被告(反訴原告)の請求を棄却する。

3  訴訟費用は本訴原告(反訴被告)の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一本訴原告(反訴被告。以下、単に原告という)

1  主位的請求

本訴被告(反訴原告)フジチュー株式会社(以下、単に被告会社という)及び本訴被告樋口忠男(以下、単に被告樋口という)は原告に対し、各自五二一五万七五三六円及びこれに対する被告会社については平成二年八月二七日から被告樋口については平成二年九月八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  予備的請求

被告会社は原告に対し、四六三五万七五三六円及びこれに対する平成二年四月二五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二被告会社

原告は被告会社に対し、二七四万一五四八円及びこれに対する平成三年六月七日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

第二主張

(本訴。主位的請求)

一請求原因

1  被告会社は顧客からの委託によって農産物の売買取引を受託することなどを業務内容とする会社で大阪穀物取引所に属する商品取引員である。

被告樋口は平成元年五月一五日から同年一〇月二〇日までの間被告会社の従業員で、かつ登録外務員であり、被告会社の商品市場における売買取引の受託または委託の勧誘の業務を行っていた。

2  被告樋口の原告に対する加害行為

(1) 被告樋口は、平成元年五月中旬頃から頻繁に原告方を訪れ、この度被告会社に就職し東京支店営業第三部次長を拝命したので商品取引をやらせてくれないかと執拗に申し入れた。

これに対し、原告は「商品取引は危険なのでやりたくない」旨述べたが、被告樋口が絶対に儲かるから安心して任せてほしい。元本は保証する」旨さらに申し向けて勧誘した。

(2) そこで、原告が平成元年五月一八日頃被告樋口に対し、「元本を保証してくれるなら、それを一筆書いてくれないか」と問いただすと、被告樋口は「書いてもいい」と述べた。

原告は被告会社が元本を保証してくれるのであれば、絶対に損することはないと信じて被告会社と商品取引委託契約(以下、本件商品取引委託契約という)を締結して被告会社に金員を預託することになった。

なお、被告樋口はその際、「元本は保証するから取引は一任してくれ。大納会に収支決算をして利益があれば折半する」とも約している。

(3) 原告は、次のとおり、被告樋口を介して被告会社に金員を預託した。

① 平成元年五月一八日

八〇〇万円

② 平成元年五月二二日

一一〇〇万円

③ 平成元年七月一〇日

一七八五万七五三六円

④ 平成元年七月一三日

六〇〇万円

⑤ 平成元年九月一三日

三五〇万円

(4) 被告樋口は、次のとおり、原告が被告会社に預託した証拠金について被告会社が元金を保証する旨の念書を作成し原告に交付した。

① 平成元年五月一八日

八〇〇万円

② 平成元年五月二二日

八〇〇万円及び一一〇〇万円の合計一九〇〇万円

③ 平成元年七月一三日

一七八五万七五三六円及び六〇〇万円の合計二三八五万七五三六円

3  被告樋口の原告に対する「絶対に儲かる。元本を保証する」との申し向けによる商品取引の勧誘及び金員の受領、念書の作成交付は、いずれも被告会社の業務の執行につきなされたものであるから、被告樋口には民法七〇九条に基づく責任が、被告会社には民法七一五条に基づく責任がある。

4  損害

原告は被告樋口の右不法行為により四六三五万七五三六円預託して同金額の損害を受けたほか、精神的苦痛も受けており、右精神的苦痛を金銭で評価すると一〇〇万円が相当である。

また、被告会社は右委託証拠金の返還に応じないため、原告は原告訴訟代理人らに本件訴訟を委任しており、その弁護士費用は四八〇万円が相当である。

二請求原因に対する被告会社の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、(1)、(2)の事実は知らない。(3)のうち①、②、④、⑤の事実は認める。(3)の③については、一七八五万七五三六円ではなく、一七八五万七二三六円である。(3)の④の事実は知らない。

3  同3、4は否認する。

三請求原因に対する被告樋口の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、(1)、(2)の事実は否認する。(3)のうち①、②、④、⑤の事実は認める。(3)の③については、一七八五万七五三六円ではなく、一七八五万七二三六円である。(3)の④の事実は否認する。念書の作成交付は商品取引終了後である。

3  同3、4は否認する。

(本訴。予備的請求)

一請求原因

1  本訴、主位的請求の請求原因1、2に同じ。

2(1)  被告樋口の原告に対する勧誘は、商品取引所法に違反する違法行為によって原告の判断を誤らせたものであってその違反の態様は重大であるから、本件商品取引委託契約は公序良俗に反して無効である。

(2) 原告は、被告樋口の右勧誘によって、利益を上げることはあっても絶対に損することはないと誤信して本件商品取引委託契約を締結したものであって、原告に要素の錯誤があるから、右商品取引委託契約は無効である。

(3) 仮にそうでないとしても、被告樋口の欺罔によって本件商品取引委託契約が締結されたものであって、原告は平成二年一〇月二五日右商品取引委託契約を取り消す旨の意思表示をした。

3  原告は平成二年三月二三日被告会社に対し、四六三五万七五三六円の支払を求める旨の催告をした。

4  よって原告は被告会社に対し、四六三五万七五三六円及びこれに対する平成二年四月二五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める。

二請求原因に対する被告会社の認否

1  請求原因1の認否は、本訴、主位的請求の請求原因1、2に対する認否に同じ。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は認める。

4  同4は争う。

(反訴)

一反訴請求原因

1  被告会社は商品取引業を営む会社であり、原告は被告会社に商品取引を委託していたものである。

2  被告会社は原告との間に平成元年五月中旬頃次の商品取引委託契約を締結した。

(1) 原告は被告会社に対し、大阪商品取引所において大阪小豆の豊橋乾繭取引所において豊橋乾繭の各先物取引をなすことを委託し被告会社はこれを受託した。

(2) 原告は被告会社に対し、各商品取引から生じる差損金等の精算金支払債務を担保するため、委託本証拠金、委託追加証拠金を預託するものとする。

(3) 被告会社は原告の計算において、その指示に従い商品先物取引をなし、差益金が生じたときは被告がこれを原告に支払い、差損金が生じたときは原告が被告会社にこれを支払うものとする。

(4) 原告は被告会社に対し、被告会社が原告のためになした商品取引について所定の手数料を支払うものとする。

(5) 原告が被告会社に対し、差損金及び手数料の支払い債務を負担したのに原告がその支払をなさないときは、被告は右(2)記載の証拠金を右差損金等及び手数料支払債務の弁済に充当することができる。

(6) 証拠金を債務の弁済に充当しても、なお不足額のあるときは、被告会社は原告に対しその支払を請求することができる。

3  被告会社は原告の指示にしたがい、平成元年五月一八日から同年九月一日までの間、別紙売買取引一覧表記載のとおりの商品先物取引(以下、本件商品取引という)をなした。しかして、原告は本名による取引のほか、大阪穀物取引所における大阪小豆の取引について磯崎義春、佐藤良一の仮名による取引をなし、右仮名口座を開設していたものである。

4  原告は、本件商品取引により、別紙売買取引一覧表差引損益欄記載のとおり合計四八三二万〇一二一円の差損を生じ、被告会社に対し、同額の精算金支払債務を負担した。しかるところ、原告は被告会社に対し、平成元年五月三〇日に取引を終了した佐藤良一口座の差損金二〇七六万九二一六円のうち二七六万九二一六円を支払い、磯崎義春口座の差損金九三〇万九三五七円のうち五〇万九三五七円を支払った。したがって、原告の被告会社に対する精算金支払債務は四八三二万〇一二一円から三二七万八五七三円を控除した四五〇四万一五四八円となるが、被告会社は原告に対し、原告口座の利益金から平成元年六月三〇日一〇〇万円、同年七月一〇日二八五万七二三六円を支払ったため、同年九月一日取引終了時点での原告の被告会社に対する精算金支払債務は四八八九万八七八四円となった。

5  被告会社は原告に対し、取引終了後、担当外務員被告樋口を通じて四八八九万八七八四円の支払を請求したが、原告はその支払をなさず、そこで被告会社は原告から預託を受けた証拠金合計四六一五万七二三六円を精算金内金に充当した。その結果、四八八九万八七八四円から四六一五万七二三六円を控除した二七四万一五四八円が原告の被告に対する精算金支払債務として残存することとなった。

6  よって、被告会社は原告に対し。右精算金二七四万一五四八円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成三年六月七日から支払済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3のうち、原告が磯崎義春、佐藤良一の口座を開設したことは認め、その余の事実は否認する。

4  同4、5の事実は否認する。

5  同6は争う。

理由

(本訴について)

一被告会社が顧客からの委託によって農産物の売買取引を受託することなどを業務内容とする会社で大阪穀物取引所に属する商品取引員であること、被告樋口が平成元年五月一五日から同年一〇月二〇日までの間被告会社の従業員で、かつ登録外務員であり、被告会社の商品市場における売買取引の受託または委託の勧誘の業務を行っていたことは当事者間で争いがない。

二証拠(〈書証番号略〉、証人神田勝行、原告)によれば、次の事実が認められる。

1  原告は昭和五〇年頃日光商事株式会社を通して商品取引をし約一億円程の損をしたことがあるほか、昭和五九年頃に山佐商事株式会社を通して商品取引をし約二五〇〇万円程の損をし、昭和六三年頃にも富士商品株式会社を通して商品取引をし約二〇〇〇万円程の損をしたことがある。原告は山佐商事株式会社の外務員田辺から被告樋口を紹介されて同人を知るようになり富士商品株式会社を通しての商品取引では、被告樋口を担当の外務員として取引していた。

2  被告樋口は平成元年四月頃原告に対し「被告会社に就職し東京支店営業第三部次長にならないかとの誘いがあるので協力してもらいたい。見せ金でもいいから少し預けさせてくれ」と申入れ、これに対し、原告は商品取引で多大な損失を受けていたことから右申出を断っていた。

しかし、被告樋口が「絶対に儲かるから安心して任せてほしい。元本は保証する」旨さらに申し向けて勧誘し、原告が平成元年五月一八日頃被告樋口に対し、「元本を保証してくれるならそれを一筆書いてくれないか」と問いただすと、被告樋口が「書いてもいい」と述べたことから、原告は被告会社が元本を保証してくれるのであれば、絶対に損することはないと信じて被告会社と本件商品取引委託契約を締結して被告会社に金員を預託することになった。

なお、被告樋口はその際、「元本は保証するから取引は一任してくれ。大納会に収支決算をして利益があれば折半する」とも約している。

3  原告は、次のとおり、被告樋口を介して被告会社に金員を預託した

(1) 平成元年五月一八日

八〇〇万円

(2) 平成元年五月二二日

一一〇〇万円

(3) 平成元年七月一〇日

一七八五万七二三六円

(4) 平成元年七月一三日

六〇〇万円

(5) 平成元年九月一三日

三五〇万円

4  被告樋口は、次のとおり、原告が被告会社に預託した証拠金について被告会社が元金を保証する旨の念書を作成し、原告に交付した。

(1) 平成元年五月一八日

八〇〇万円

(2) 平成元年五月二二日

八〇〇万円及び一一〇〇万円の合計一九〇〇万円

(3) 平成元年七月一三日

一七八五万七五三六円及び六〇〇万円の合計二三八五万七五三六円

5  被告会社は原告の計算で、平成元年五月一八日から同年九月一日までの間、本件商品取引をなしたが、大阪穀物取引所における小豆の取引については磯崎義春、佐藤良一の仮名による取引で主として被告樋口の一任による取引であった。また、豊橋乾繭取引所における乾繭の取引は平成元年六月頃までは主として被告樋口の一任による取引であったが、それ以降は原告の個別的指示に基づき被告会社の外務員神田勝行がなした取引であった。

6  もっとも原告が被告樋口に対し個別的に取引の委託をしたこともあり、被告樋口も一任取引に際しても取引の都度原告にその取引内容について報告はしていた。平成元年六月頃から原告の計算での取引に損が出てきたため、被告樋口は原告を避けるようになり、平成元年七月からの豊橋乾繭取引所における乾繭の取引は主に被告会社の外務員神田勝行が担当するようになった。豊橋乾繭取引所における乾繭の取引は原告からの申入れによるものもあったが、神田勝行が推奨し、原告がこれを承諾するという形態をとる取引が多かった。

7  原告は、本件商品取引により、別紙売買取引一覧表差引損益欄記載のとおり合計四八三二万〇一二一円の差損を被った。

三右認定事実からすれば、被告会社の登録外務員である被告樋口と原告との間で一任売買の委託契約とともに元金の保証契約が締結されたものと認めることができる。そこで、登録外務員である被告樋口の権限、右一任売買の委託契約と元金の保証契約の有効性、被告樋口の不法行為の有無について検討する。

1 商品取引所法九四条二項、三項によって、外務員が一任売買の委託契約及び元金の保証契約を締結することは禁止されてはいるものの、同条項に違反したとしても罰則もないことから同条項は行政上の単なる取締規定であるとみられるうえ、同法九一条の二第一項は「外務員は、その所属する商品取引員に代わって、商品市場における取引の受託又は取引の勧誘に関し、一切の裁判外の行為を行う権限を有するものとみなす。但し、相手方が悪意であったときは、この限りでない」旨規定しているところから、外務員は商品市場における取引の受託又は委託の勧誘に関してするものであれば一任売買の委託契約及び元金の保証契約を締結する権限を有するというべきである。とすれば被告会社の登録外務員である被告樋口と原告との間の一任売買の委託契約及び元金の保証契約は商品市場における取引の受託又は委託の勧誘に関してなされたものであるから、被告樋口は右各契約を締結する権限を有していたと認められる。

2 また、右に述べたとおり、商品取引所法九四条二項、三項の規定は行政上の単なる取締規定であるとみられることから、外務員である被告樋口がなした一任売買の委託契約及び元金の保証契約は商品取引所法九四条二項、三項に違反するものであってもその私法上の効力には何らの影響を及ぼさないということができる。

3 そして、被告会社の登録外務員である被告樋口と原告との間の一任売買の委託契約及び元金の保証契約によって、原告に格別の損失を生じる可能性はないのであるから、右各契約が公序良俗に反するとは到底いうことはできず、また、被告樋口の右一任売買の委託契約及び元金の保証契約の勧誘それ自体が原告に対する不法行為であるともいうべきではない。

4  さらに、原告に錯誤があったとか、被告会社の登録外務員である被告樋口に詐欺があったことを認めるに足る証拠はない。

四そうとすれば、被告樋口の不法行為は認められないので原告の主位的請求は理由がなく、また、被告会社の登録外務員である被告樋口と原告との間の一任売買の委託契約及び元金の保証契約がいずれも公序良俗違反、詐欺、錯誤にあたらず有効であることから原告の予備的請求も理由がない。

(反訴について)

一被告会社が商品取引業を営む会社であり、原告が被告会社に商品取引を委託していたものであることは当事者間で争いがない。

二前記本訴についての二で認定した事実及び証拠(〈書証番号略〉、証人神田勝行、原告)によれば、次の事実を認めることができる。

1  被告会社は原告との間に平成元年五月中旬頃次の商品取引委託契約を締結した。

(1) 原告は被告会社に対し、大阪商品取引所において大阪小豆の豊橋乾繭取引所において豊橋乾繭の各先物取引をなすことを委託し被告会社はこれを受託した。

(2) 原告は被告会社に対し、被告会社が原告のためになした商品取引について所定の手数料を支払うものとする。

2  被告会社は原告の計算で、平成元年五月一八日から同年九月一日までの間、本件商品取引をなしたが、大阪穀物取引所における小豆の取引については磯崎義春、佐藤良一の仮名による取引であるうえ、その多くが原告の個別的指示なく被告樋口がなした取引であった。また、豊橋乾繭取引所における乾繭の取引は平成元年六月頃までは主として被告樋口の一任による取引であったが、それ以降は原告の個別的指示に基づき被告会社の外務員神田勝行がなした取引であった。

3  もっとも原告が被告樋口に対し個別的に取引の委託をしたこともあり、被告樋口も一任取引に際して取引の都度原告にその取引内容についての報告をしていた。平成元年六月頃から原告の計算での取引に損が出てきたため、被告樋口は原告を避けるようになり、平成元年七月からの豊橋乾繭取引所における乾繭の取引は主に被告会社の外務員神田勝行が担当するようになった。豊橋乾繭取引所における乾繭の取引は原告からの申入れによるものもあったが、神田勝行が推奨し、原告がこれを承諾するという形態をとる取引が多かった。

4  被告会社の外務員神田勝行が扱った取引は、大阪穀物取引所での小豆取引については別紙売買一覧表取引所大阪穀物取引所の番号8、9の売買、番号5、6、7の仕切で、豊橋乾繭取引所での乾繭取引については別紙売買一覧表取引所豊橋乾繭取引所の番号37ないし40、44、45、47、49ないし58の売買、番号8、9、10、21、22、24、27ないし31、33、34、38ないし40、42ないし54、56ないし58の仕切である。

なお、被告会社は、反訴請求原因2のうち、(2)、(3)、(5)、(6)の約定も存したと主張するが、前記認定のとおり、一任売買の委託契約及び元金保証契約が存すると認められるところから、これを認定することはできない。

三以上によれば、原告の個別的指示に基づきなされたと認められる取引は被告会社の外務員神田勝行が扱った大阪穀物取引所での小豆取引のうち別紙売買一覧表取引所大阪穀物取引所の番号8、9の売買、番号5、6、7の仕切並びに豊橋乾繭取引所での乾繭取引のうち別紙売買一覧表取引所豊橋乾繭取引所の番号37ないし40、44、45、47、49ないし58の売買、番号8、9、10、21、22、24、27ないし31、33、34、37ないし40、42ないし54、56ないし58の仕切に限られるということができる。そして原告の個別的指示に基づかず被告樋口が原告の計算で買受けた小豆、乾繭についてその反対売買につき原告の個別的指示に基づいて被告会社の外務員神田勝行がなしている分については被告樋口のなした右各取引を個別的に追認したと認めるのが相当である。

とすれば、原告は別紙売買一覧表取引所大阪穀物取引所の番号5ないし9の各取引及び別紙売買一覧表取引所豊橋乾繭取引所の番号8、9、10、21、22、24、27ないし31、33、34、37ないし40、42ないし54、56ないし58の各取引により、合計一四四五万九四九三円の差損を生じ、被告会社に対し、同額の精算金支払債務を負担したが、右取引以外の大阪穀物取引所の小豆の取引、豊橋乾繭取引所の乾繭の取引については被告会社が被告樋口による一任取引であることを前提とする主張をしていないことからその精算金支払債務を負担させえないものというべきである。

しかして、被告会社は原告から預託を受けた証拠金合計四六一五万七二三六円を精算金内金に充当したと主張するので、原告の被告会社に対する精算金支払債務は残存しないと認められる。

四よって、被告会社の原告に対する反訴請求は理由がない。

(裁判官内田計一)

別紙売買取引一覧表〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例